千年働いてきました

日本には創業100年を超える老舗企業が驚くほど多い。その理由のひとつは当然のことながら他国に侵略されて植民地になったりしたことがないというのが大きいのだけれども、どうやらそれだけでもないらしい。日本には職人の魂とでも言うべきものづくりにこだわる文化があるのだ、というお話。最先端のハイテクの塊であるケータイ電話と老舗企業。一見なんの関係もなさそうなんだが、ところが発信器に使われてる人工水晶だとかマナーモードの振動する極小のモーターのブラシだとか、1つ1つの小さなでも非常に重要な部品は創業100年以上を誇る老舗のものづくりの技術なくして存在しえなかったものばかり。この本で紹介されている老舗企業は、100年前から変わらぬ味の料亭みたいな歴史を守り続けているような企業ではなくて、長年培ってきた技術を応用し、時代の流れに合わせて新しい価値を生み出し続けるような企業のプロジェクトX的な物語である。
しかしながら大変残念なことに、著者はノンフィクション作家であり、調査した事実を順番に紹介するだけで、本全体の統一性にかけ、ただの雑学本にしかなっていない。各章ごとに著者の意見や仮説がまとめとして述べられているが、結論ありきでそのための例を前に並べている風に感じてしまうのはなんだろう(意図があるなしにせよ)。いくつかの例から帰納的に導かれた結論が、さも一般的な法則であるかのような表現が気になって仕方がないと思うのでした。