生物と無生物のあいだ

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生命とは何か?というシンプルでかつ難しい問題に対し、哲学ではなく今日の生物学はどのような解釈をしているのか。軽い新書のつもりで読んだらめちゃくちゃ生物学のマジメな解説でしたよ。どちらかというとブルーバックスに近いかんじ。喜ぶのは純粋な理系人だけで、普通のビジネスマンこんなの読んでもたぶん意味わかんない。それでもなお無理してでも本書を読む価値があると言えるのは、生命とは単に自己複製するシステムという定義では不十分で、生命とは動的平衡状態にある流れこそが本質であるとする解釈である。
我々の体は単に部品を組み合わせた静的な機械ではなく、分子レベルでは我々が食べたものにより絶えず入れ替わっていて、皮膚や髪の毛など目に見えて入れ替わるものだけではなく、体内のあらゆる細胞が、分子レベルで日々入れ替わっている。1年前の自分と今の自分は分子レベルで見ればまったくの別人であって、じゃあ個人のアイデンティティとはなんぞや?という哲学的な疑問から、自分と認識しているものは結局遺伝子が規定した振る舞いによる単なる自然現象なんだから、そんなにがんばんなくてもよいんじゃないかという悟りの境地に達したり、もうちょっと食べるものに意識を払わねばという庶民的なことまでいろいろ考えさせられるなかなか興味深い本です。とりあえず読むと価値観が変わる良書です。