ほしのこえ あいのことば/ほしをこえる

ほしのこえ あいのことば/ほしをこえる

ほしのこえ あいのことば/ほしをこえる

新海誠ほしのこえのノベライズ版です。ほしのこえのノベライズ版は実はこれがはじめてではなくて、大場版ほしのこえ The voices of a distant star (MF文庫J)が既に存在するわけですが、いまいち評価がぱっとせず読むのをためらったまま、けっきょく読んでないです。で、そんな今日この頃、同じく新海誠雲のむこう、約束の場所のノベライズを手がけた加納氏がほしのこえの新解釈を加えてノベライズ化したのがこの作品。ミカコ視点で描かれる「あいのことば」と原作では描かれなかったノボル視点から描かれる「ほしをこえる」の2編から構成されます。
原作アニメを知らない人のためにどんな話か簡単に説明しておくと、宇宙と地球に引き裂かれた少年少女の恋愛物語。国連軍の選抜メンバーとして宇宙へ旅立ったミカコと、地球に残され平凡な高校生活を送るノボルの間でやりとりされるメール。地球から離れるにつれてメールの往復にかかる時間がだんだんと伸びてゆき、二人の間の時間は決定的にズレてゆく。空間の距離がそのまま二人の時間の距離となるというSF風味の恋愛ものです。
原作のストーリーは非常に斬新でおもしろいテーマだけど、25分と非常に短いアニメ。このため、原作アニメはどうしてもストーリーは断片的に成りがちで、テーマは伝わるが、背景設定がイマイチよくわからないという印象を受けた。特にタルシアンに対する説明がほとんどなく、唐突に現れる。これに対し、ノベライズではそのへんの舞台設定や、ミカコが宇宙に行く前のストーリーも書き込まれ、地球での二人の微妙な距離感がうまく描けていると思う。しかしながら、原作と同様に主要人物であるミカコとノボル以外に対する記述がほとんどなく、どこか非現実的なできごとの印象を受ける。宇宙に行ってからは上の空で、二人だけの世界に閉じこもってしまうのはよいとして、地球でのエピソードはノベライズで加筆するならもう少し生活感を出してもよかったのではないかなぁと思うわけです。
で、ノボル視点でのほしをこえるについてですが、原作に対する救いとなる解釈はうれしい。この解釈自体は佐原ミズのコミック版とかでも提示されているので、おそらく原作の新海さんがはじめから描いていた解釈なのだろうと思う。どうせノベライズで加筆するならノボルの成長過程をもっと雲のむこう〜のノベライズ化のときのように大胆にオリジナルなエピソードを追加して描いて欲しかったり。
結論。加筆するならもっと大胆に。ちょっと物足りない。原作の雰囲気は佐原氏のコミック版ほしのこえ (KCデラックス)のが完成度は高かったと思う。加納氏の雲のむこう、約束の場所はすばらしいできだと改めて思う。雲の向こう〜は城陽人オブザイヤー2006最有力候補。