小説・秒速5センチメートル

小説・秒速5センチメートル (ダ・ヴィンチブックス)

小説・秒速5センチメートル (ダ・ヴィンチブックス)

新海誠の同名OVAを監督自身がノベライズ化。劇場で見たときラストシーンだけがどうしても許せなくて、そのために好きになれない作品だったのだけれども、ノベライズ版も読みました。

ノベライズ版では、初めの1、2話はほとんど一緒。美しい世界観を損なわない出来です。で、問題の3話だけれども、主人公が社会人になってSEというかプログラマになって少しずつ疲弊し、失ってゆく物語が語られる。映画ではここの部分が大幅にカットされていたというか、一応あったんだけど、飛び飛びの連続したカットと会話の切り替わりで、直接的な言葉では語られずにいたのでその意図がよくわかっていなかった。ここからネタバレ注意。

活字になってわかったことだけれども、この物語は1話の「桜花抄」で語られた主人公の貴樹と明里の二人の恋の物語ではなく、貴樹の成長を描く物語であって、明里はその一部でしかないということ。昔の恋人と運命の再会の物語なんかじゃない。ラストシーンで踏み切りの向こう側に明里がいるかどうかに関係なくて、そこは通過点でしかなくて、いろんなものを失った貴樹が少しずつでも前へ進もうと思った喪失と再生の物語であったんだと。あの映像でそこまでわかんないですよ正直なところとか思うのは私だけでしょうか。